1. 北の道  Camino del Norte

北の道Camino del Norteはフランス国境のイルンIrunイルンを出発点としてバスク自治州Pais VascoのビルバオBilbao、カンタブリアCanatabria州のサンタンデールSantander、アストゥリアAsturias州のヒホンGijonを通り、ガリシアGaricia州へのリバデオRibadeoから内陸部へ入ってフランス人の道Camino FrancésのアルスーアArzuaアルスーアへ至る約819Km,32Etapa(区間)です。
巡礼路はカンタブリア海に沿ってSサン・セバスティアンSan Sebastiánを始め多くのリゾート地域を通ります。海岸地域は背後にカンタブリア山脈が海岸近くまで迫り狭い海岸である事から標高差は200~300mですが一日の標高差が最も大きい巡礼路です。
スペイン北部の沿岸地域の気候はメキシコ湾流の影響で高緯度であるにも関わらず比較的温暖であり冬も山間部を除き降雪量は少ない。西岸海洋性気候の為、年間を通して降雨量が多くバスク自治州Pais VascoのビルバオBilbaoでは年全体で雨天の日が45%、曇りの日が40%を占めます。10月から4月にかけて、そして11月が最も降水量が多い時期です。
サンティアゴ巡礼の歴史は814年に使徒サンティアゴの墓が発見され、アストゥリア王国のアルフォンソ二世が始めて訪れた事から始まりますが、その巡礼路はオビエドOviedoから内陸部を通ってフランス人の道Camino FrancésのメリデMerideへ至る道でプリミティボの道Camino Primitivoと呼ばれています。
北の道Camino del NorteはヒホンGijón手前のビジャビシオサVillaviciosaからプリミティボの道Camino Primitivoへ分岐しており、このため沿岸部のリバデオRibadeoを経由する巡礼路は海岸の道Camino de la Costaとも呼ばれています。
北の道Camino del Norteは中世にイスラム勢力の侵攻によりスペイン南部を通る事が危険であった時期に多くの巡礼者が利用しました。巡礼路は沿岸部を歩く事から景観も美しく変化の多い素晴らしい巡礼路としてフランス人の道に次ぐ人気となっています。

2. 巡礼路の概要

(1) イルンIrunからビルバオBilbao
フランスとの国境の街から出発してスペインでも有数のリゾートであるサン・セバスティアンSan Sebastiànへ入ると美しい海岸沿いにホテルやレジデンスが立ち並んでいます。ここはバスク自治州Pais Vascoで街の商店の看板もバスク語で書かれており、グルメの街にふさわしくバルBarには垂涎のピンチョPinchosが並んでいます。
ここからサラウツZarautz、デバDebaまで海を眺めて歩ける素晴らしい巡礼路ですが、北の道のアップダウンの多い事に気づきます。デバDebaから巡礼路は山間部へ入り、スペイン内戦で壊滅的な被害を受けたゲルニカGernika-Lumoの街まで2日です。
ゲルニカGernica市内には爆撃の悲惨な様子を描いたピカソの絵画(オリジナルはマドリードMadridにある)が公園にあり、平和博物館で当時の様子を見る事が出来ます。
ゲルニカGernicaから山村を下ると人口約35万人の大都会であるビルバオBilbaoへ到着します。ビルバオBillbao市内にはビルバオ川岸にゲッケンハイム美術館があり、見どころも多いので一日を観光に充てても良いでしょう。

巡礼路を船で渡る
ゲルニカでのピカソ(複製)


(2)ビルバオBilbaoからサンタンデールSantander
ビルバオBilbaoを出るビルバオ湾の入り口にポルトゥガレテPortugaleteの街があり、見事な吊り橋のビスカヤ橋(世界遺産)の渡し船から素晴らしい眺めを見ることが出来ます。歩行者・自転車専用道を通り海岸に着くと砂浜を歩いてポベーニャPobeñaのアルベルゲがあります。ポベーニャPobeñaから内陸部へ入ると廃線跡を利用した遊歩道を通ってリゾートホテルが並ぶカンタブリアCantabria州のカストロ・ウルディアーレスCastro-Urdialesに入りますが、ここでは15世紀に建設されたゴシック様式のサンタ・マリア・デ・ラ・アスンシオン教会は是非立ち寄る事をお勧めします。翌日のラレードLaredoまでは海岸沿いに31Kmの道のりですが、途中から国道(N634)を経由する(約26.7Km)ルートが記載されているガイドブックもあります。

ラレードLaredoからグエメスGũmes間は海岸沿いにサントーニャSantoña、ノハNojaを経由するルート(28.9km)と内陸のコリンドレスColindresを経由するルート(32.5Km)に分岐するが前者を通る巡礼者が多い様です。
ラレードLaredoから海岸を歩き、船でサントーニャSantoñaへ渡り、ノハNojaから山村の道をグエメスGũmesまで歩きます。グエメスGũmesには巡礼者に人気のエルネスト神父が建設して現在はボランティアの運営するアルベルゲ(Albergue La Cabaña del abuelo Peuto)があるので是非泊まってみたい所です。
グエメスGũmesからソモSomoの港へ下り、船でサンタンデールSantanderへ渡ります。
サンタンデールSantanderはカンタブリアCantabria州の州都で人口約18万人の大都会ですが1941年の大火で大きな被害を受け、現在の近代的な町並みはその後に再建されたものとの事です。

ポルトゥガレテのビスカヤ橋
カストロ・ウルディアーレスの教会

(3)サンタンデールSantanderからヒホンGijón
サンタンデールSantanderから海岸線を離れサンティジャナ・デル・マールSantillana del Marまでは38.5Kmの長いEtapa(区間)です。サンティジャナ・デル・マールSantillana del Marはスペインで最も美しい村と言われ、中世の町の姿をそのまま残しており、14,15世紀の紋章の付いた石造りの家々や11世紀のロマネスク様式で有名なサンタ・マリア教会などがあり村全体が重要文化財に指定されています。イルンIrunからここまでを区切りとして中断する巡礼者も多くおられます。
巡礼路は港町のコミージャComillasまで暫く海岸線から離れて歩きますがサン・ビンセンテ・デ・ラ・バルケラSan Vincente de la Barqueraを過ぎて、アストゥリアAsturias州に入ると背後の山々が美しく迫っています。
ジャネスLlanes手前のペンドゥエレスPendueles付近からの海岸線を歩く巡礼路は北の道Camino del Norteの核心でもあり最も美しい区間と言えます。再び海岸線を離れ、リバデセージャRibadesellaを過ぎビジャビシオーサVillaviciosaの街を出るとプリミティボの道Caminino Primitivoとの分岐があります。セブラユSebrayuからArto de Cruz(381m)まで山道を登るとヒホンGijónの街を見ながらの下りとなります。

サンティジャーナ・デル・マール
アストゥリアスの山を見ながら

(4)ヒホンGijönからアルス―アArzuaへ
Gijón(ヒホン)はビスケー湾を望む人口約27万人の美しい港町です。海に突き出たサンタ・カタリーナ丘のふもとには、ローマ時代からの街シマビージャCimavillaがありローマ浴場の跡が見つかっています。
アビレスAvilesを過ぎソト・デ・ルイナSoto de LuiñaからルアルカLuarca間は国道(N632-a)歩きとなります。ルアルカLuarcaは静かな漁村であり港を望むレストランでは一息つけ、暫し休息を取りたい場所です。ラ・カリダLa Caridaの街を過ぎると長い橋を渡ってガリシアGaricia州のリバデオRibadeoです。アルベルゲは橋の脇に建てられ行き交う船の眺めを楽しむことが出来ます。
いよいよカンタブリア海沿岸の巡礼路から分かれサンティアゴへ向かいますが山間部にはユーカリの林が続いています。
モンドニェードMondoñedoの村にはモンドニェード=フェロル司教区の司教座があるためかサンタ・マリア聖堂は見事です。
モンドニェードMondoñedoから稜線に並ぶ風力発電の風車を望みながら長い登りとなりゴンタンGontánまで下ると比較的新しいアルベルゲがあり快適です。
さらにベアモンテBeamonteの村へ着くと、いよいよサンティアゴまで100km圏内になりますがここは交通の便も良くないため、リバデオRibadeoから残り100Kmスタート地点として利用されています。
次の街のソブラド・デ・モンヘスSobrado de Monxesまでは40Kmありますが途中に公営のアルベルゲが無く、ミラツMirazのイギリス友の会が運営するアルベルゲを利用する巡礼者が多いが収容人員は28名と小さく早めの時間に到着が必須です。ソブラド・ドス・モンヘスSobrado dos Monxesにはシトー派の17世紀に建設されたサンタ・マリア修道院があり、現在は内部がアルベルゲに利用されています。ここからアルスーアArzuaまで22Kmでフランス人の道と合流しますが突然の巡礼者数の多さに驚くでしょう。

リバデオへの橋
ロマネスクの教会



北の道巡礼路

出展 : Camino del Norte a Santiago de Compostela .Nuestra Crónica.
高低図

出展 : https://www.pilgrim.es/camino-norte/

3.宿泊設備、交通事情

(1)宿泊設備
北の道Camino del Norteはフランス人の道ほどアルベルゲは多くなく比較的収容人員の小さい設備が多いですが巡礼者の増加で市営(Privado)のアルベルゲも増えてきました。
海岸添いのリゾート施設ではシーズンオフにディスカウントで巡礼者を泊めてくれるところもあります。
詳細は下記のWebサイトが最新情報を掲載しています。

EROSKI CONSMER   Mundicamino    Gronze.com
下記のサイトにアルベルゲのリストが掲載されていますので利用してください。
Camino Norte o Camino de la Costa. Listado de Albergues de Peregrinos y acogida.

(2)交通事情
北の道の出発地点となる イルンIrunはフランスのパリからTGVで行くか帰国の航空便の利用を考慮してマドリードからバス、電車または航空便(サンセバスティアン空港(EAS))を利用する事になります。途中のビルバオBilbao、サンタンデールSantanderを出発点とすればマドリードからバス、電車となります。
下記のサイトが詳細に記載されていますので参照下さい。(巡礼路を歩く、巡礼路への行き方、戻り方 等)

日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会

4.歩いた行程表

私が歩いた行程表です。<PDF>(休養日等も含まれておりますが日程の参考にして下さい。)

5.巡礼路の全体的な印象

Camino del Norte(北の道)はCamino Frances(フランス人の道)に比較して以下の相違点と特徴があります。 これから歩こうと計画している方への注意事項を記載します。
① 一日の標高差(アップダウン)が大きい
北の道の沿岸地域は背後にカンタブリア山脈が迫り、狭い海岸地帯である事から標高差は200から300m程度ではあるが一日何回かアップダウンがあり以外に体力を要する。(特にサンタンデールまでの前半が大きい)
② アルベルゲの収容人員が少なく、シーズン中のみの営業が多い
アルベルゲは主要な区間の村・都市にありますが、収容人員の少ない小規模なアルベルゲが殆どで夏季(6月~9月)のみの営業の所があります。 但し、リゾート地域である個所にはホテルが多く、宿泊設備にはあまり苦労はない。 (料金も5月はシーズンオフでディスカウントのホテルがあった。)
③ 雨が多い
北の道の沿岸地域は西岸海洋性気候で一年を通して雨の多い地域です。雨具(ゴアテックスの上下)は防寒にもなり役立ちます。
④ 最新情報に注意する
区間の道標(モホン)や矢印(黄色のペンキ)は、基本的に完備されています。 但し、スペイン国内のウォーキングコース(GR)と並行している個所が多く、表示が紛らわしい個所もありました。 巡礼路の最新情報には注意が必要です。

6.ガイドブック

北の道のガイドブックで販売・購入可能なガイドブックは下記です。

書名 : Camino del Norte: Irun to Santiago along Spain’s Northern Coast
著者 : Matthew Harms 他 出版社:Village to Village Press; 3rd版
ISBN: 978-1947474192 発行年 : 2020年
価格: ¥2,039より

書名 : Camino de Santiago – Camino del Norete: El camino costero de Irun a Santiagode Compostela. 34 etapas Con track de GPS
著者 : Cordula Rabe  出版社: Bergverlag Rother
ISBN: 978-3763347148 発行年 : 2019年
価格:¥2,161より

書名 : The Camino del Norte and Camino Primitivo
著者 : Dave Whitson 出版社: Cicerone Press
ASIN:B07VKM6M9R 発行年 : 2019年
価格:¥2,512より